三度の飯より授業が好き

生徒の学力向上に真正面から挑む塾講師の勉強ブログ

【読書】プロ教師の「超絶」授業テクニック 中土井鉄信

【子どもが「わかる」解説】

動機づけの理論は、色々あります。ここでは、次の公式を取り上げてみます。

動機づけ(やる気)=価値(結果に対する評価・感情)×期待(上手くいきそうだという実感)

価値とは、簡単に言ってしまえば、結果に対する報酬です。当然、報酬ですから、大きい方がいいのです。具体的に言えば、結果に対して自分がどう思うか、他人からどういう賞賛が得られるかということです。できて嬉しいとか、大きな賞賛が与えられるとか、誰もができることではないことをやって鼻高々だということが、価値ということです。魅力的な目標と言ってもいいかもしれません。

期待とは、簡単に言ってしまえば、可能性です。当然、可能性ですから、高い方が良いのです。可能性とは、自分ができると思っているという感覚です。

分解すると、「結果期待」と「効力期待」と「手段保有感」に分かれます。

結果期待は、頑張れば上手くいくという実感です。この実感を大きくするためには、過去の自分の成功体験を思い出すことが重要です。

効力期待は、後でも触れますが、結果を出すために自分は努力できるという感覚です。この感覚を高めるためには、他人の成功体験を聞いたり、大きな目標を細切れ(ブレイクダウン)にして実行可能な小さな目標にしたり、教師の励ましを受けたりすることが必要です。

最後に、手段保有感は、結果までのやり方がわかっているという感覚です。この感覚を高めるためには、教師がスキルを教えればよいのです。この感覚が低いと、いくら、他の二つの期待が高くてもやる気にはなりません。やり方が分かっていないのですから、やる気を出せと言われても無理な話です。行動ができないので、結果は出るはずがありません。

よく分かる授業は、子どもの効力期待(この課題はやれそうだという自信や信念)を高め、手段保有感(やり方が分かっている感覚)を高めます。だから、小学生でも中学生でも、授業がよく分かるとやる気になるのです。

分かる解説とは、既に知っている情報(知識・考える枠組み)を使って、新しい知識が整理されることです。”ああそうか!”と思うのは、既に知っていることと、新しいことが関連付けられた時です。ですから、私たちの授業では既に知っている情報をどう子どもたちに見せていくか、そしてどうやって未知の情報と関連付けるかが、重要なことなのです。後の章でも、別の側面で分かりやすい授業について触れますが、ここでは、以下のようなステップをまずは理解しておいてください。

①子どもが「分かる」ために、全体像を示し、本時の学習の目標を明確にする

②復習(既習事項の確認)ー既習のルールを確認する

③問題の提示ー既習のルールでは解決できない問題で、新しいスキルが必要であることを確認する

④新しいルールを提示ー問題を理解するための新しいルール(スキル)を伝える

⑤新しいルールに関する定義を明確にする

⑥新しいルールが適用できる場面や条件を明確に伝える

⑦応用ー新しいルールの発展的使い方を教える

(P.52~55)

☞以前の記事で、「授業だけでは成績は上がらない」という現実を見てきた。

nekomin-lesson-learning.hateblo.jp 

nekomin-lesson-learning.hateblo.jpでは、授業にはどんな役割があるのか?その答えを示しているのがこの文章である。

著者の中土井氏は、動機づけの理論を使って説明しているが、平たく言えば授業の目的は、「内容が魅力的かつ、自分にもできそうだ」と思えるようにすることなのだと思う。

いま読んでいる学習理論の本でも、「ヒトの脳はエネルギー消費を抑えるためそもそも考えることを避けるようにできているが、問題が解けそうだという見通しができると、意欲的に取り組めるようになる」という内容の知見が紹介されている。

授業で「できそう」な感覚を高め、原理・原則に則った勉強法で「定着」させる。

授業と勉強法指導は両輪であり、成績向上のためにはどちらの要素も欠かせないのだ。

そして文章の後半では、生徒がやる気になる解説=わかる解説のポイントが紹介されている。私が思うわかる授業のポイントとほぼ符合していた。

 

【発問の「パターン」】 

さて、発問の効果には、どのようなものがあるでしょうか。教師が子どもたちに発問することによって、①子どもたちに学習に対する興味・関心が生まれ、②子どもたちの思考が促進され、③子どもたちが、あることに気づき、または新しい何かを発見する授業になります。また、そのことから、④学習の理解と定着がなされ、⑤問題解決能力が向上します。教師の側から言えば、⑥発問し、子どもたちが答えることで、承認活動が活発化し、⑦教師と子どもたちに一体感が生まれるはずです。

また、発問することによって授業にリズムが生まれ、間ができ、テンポが変化して、教師と子どもの協働作業によって授業が構成されることになります。発問に答える子どもたちは、みんなの中で自己表現することを学びます。そして、インプットだけの授業からアウトプットを重視した授業に変わります。今までの授業は知識をインプットするだけのものでしたが、知識をアウトプットすることが求められる授業に変わるのです。

それでは、具体的にどんな発問のパターンがあるのでしょうか。大体以下の7つのパターンを押さえられていれば良いのではないでしょうか。

 

①本時の課題解決に必要な既習事項のスキルを気づかせる

例)「形容詞ってどんなはたらきをするんだっけ?」

②根拠を尋ねる

例)「なぜ?」「どのように考えたの?」

③思考作業のプロセスを確認する

例)「どうやって解いたの?」「どんな式を立てたの?」

④類似点、相違点を明かす

例)「どこが同じ?どこが違う?」「何に似ている?」

⑤解決の糸口を見つける

例)「どうなればいい?」「どうなれば解けそう?」

⑥解法手順を定着させる

例)「まず何をするんだっけ?」「次に?」

⑦理解の確認

例)「ここを先生が今言ったように説明してみて?」

(P.105~107)

☞「その教師が一流かどうかは発問を見ればわかる」教育界ではこのような言説をよく耳にする。

有効な発問をするためには、

1. 教える内容の構造の理解(素材研究)

2.生徒の学習歴、保有している体験・知識、思考の傾向の理解(学習者研究)

3.1・2を踏まえた思考場面の設定(指導法研究)

が前提として必要であり、これらが入念に行われていることが、よい授業(=内容が魅力的に感じられ、自分にもできそうだと思える授業)の必須条件であるためだろう。

この文章では、その発問の具体的な機能について注目している。特に上に挙げた3を考える上での手掛かりになりそう。

 

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著者の中土井鉄信氏は、塾講師としてのキャリアを積み上げ、コンサルタントとして塾経営の改善を推進する仕事を行う、いわば塾教育のスペシャリスト。

本書は学生時代にも読んだことがあるが、経験を積んだいま改めて読み返すと、大いに刺さるものがあった。

動機づけが授業の主な役割であること、発問の使い分けなど、授業を構想する段階で参考にしたい要素がいくつも紹介されている。

「本は買って読め」とよく言われるが、自分で所有していると読み返した時にこうした再発見があることを体験すると、説得力が増してくる。

 

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