三度の飯より授業が好き

生徒の学力向上に真正面から挑む塾講師の勉強ブログ

【読書】勉強嫌いを好きにする9の法則 教師の勝算 Daniel T.Willingham

【脳は考えるのが得意ではない】

一般的に信じられていることとは逆に、脳は「考える」ようにはデザインされていない。脳は考えるのがあまり得意ではなく、なるべく考えるのを避けるようにできているのだ。「考える」というのは時間がかかり、不確かなことだからだ。それでも、達成が見込めるときは人はその知的活動を楽しむことができる。つまり問題を解くのは好きだが、解けない問題に取り組むことは好きではないということだ。(P.14)

☞動機づけの理論で言えば、「価値×期待」の中でも特に「結果期待」が大きく作用するというのが実感。「頑張ればできそう」と思えるレベルの課題設定が重要。

nekomin-lesson-learning.hateblo.jp

 

 

【考えるためには知識が必要】

意味もわからず事実を暗記させることでは子どもの能力を強化できない。それは確かだ。また、事実的な知識がない状態で分析したり、総合的に考えたりする技能を子どもに身につけさせることが不可能なのも(あまり評価されることはないが)事実である。認知科学による研究によると、教師が子どもに求める技能ー分析したり、批判的に考えたりする能力などーを習得するには幅広い事実的な知識が要求される。(P.52)

☞文章を読んで理解する際、スキーマが有効にはたらくことが知られている。背景的知識は、まさにこのスキーマとしてはたらく。物事を考える際には、長期記憶から関連する知識を呼び出して、目の前の状況に当てはめることが多い。本書では知識の獲得の手段として、読書の効用も説かれていた。読書は今も昔も、体系的に知識や語彙を得るもっとも確実な手段である。

nekomin-lesson-learning.hateblo.jp

 

【記憶は思考の残渣である】

私たちは経験することすべてを記憶に残すことはできない。あまりにも多くのことが起きるからだ。では、記憶体系には何を保持しておくべきだろうか。何度も繰り返されることだろうか。結婚のような、一度だけでもとても重要な出来事だろうか。もしくは、感情が揺さぶられるような出来事だろうか。しかし、重要ではあっても特徴のないこと(大部分の学校の課題など)は、私たちは思い出すことはできない。では、記憶体系は後から思い出す必要がある事柄をどのように判断しているのだろうか。記憶体系の見当のつけ方はこうだ。「何かを懸命に考えるということは、それについて再び考えなければならなくなるため、保持しておく必要がある」と。つまり、記憶は覚えておきたいことを覚えておこうとすることの産物ではなく、「何かについて考えること」の産物なのだ。(P.100)

☞教科書を見ながら問題を解こうとしたり、分からない問題の解説を写して終わりにしたりといった勉強方法は、思考を伴わないために、結局記憶に残らない非効率的なやり方であることが分かる。

テストのように”「考えて」自分の解答を仕上げる”というステップがどうしても必要なのだ。➡間違い直し勉強法

nekomin-lesson-learning.hateblo.jp

授業においても、記憶させたいことについて思考させる働きかけが必要になる。初心者の講師にありがちなのは、授業=プレゼンだと思っていること。生徒に疑問を投げかけるといった思考を促す働きかけが少なすぎて、ほとんど印象に残らない。発問の重要性はここにある。

 

【頭は具体的なことを好む】

抽象化は学校教育の目標である。教師はみな、学校で学んだことを学校外の状況など、新しい状況で応用できるようになることを望んでいる。問題は、頭が抽象化を好まないことだ。頭は具体的なことを好む。そのため、抽象的な原理ーたとえば、「力=質量×加速度」などの物理法則に出会うと、理解しやすいように具体的な例を求める。私たちはすでに知っている事柄に結びつけて新しい事柄を理解するが、私たちが知っていることの大部分は具体的なことである。そのため、抽象概念を理解することは難しく、新しい状況に応用するのも難しいのだ。子どもが抽象概念を理解できるもっとも確実な方法は、子どもを抽象概念の様々なバリエーションに触れさせることである。つまり、テーブルの天板、サッカー場、封筒、ドアなどの面積の計算問題を解かせることである。(P.158~159)

☞そもそも「転移」は難しいと言われる理由はここにある。抽象は、具体(それもなるべく多くの)を通してしか把握されない。授業でいきなり公式や語句の説明を始められると抵抗感が大きいのは、それが具体をすっ飛ばして抽象を押し付ける行為だからだろう。

 

【十分な練習なくして知的活動はマスターできない】

私たちの認知体系の障害となるのは、頭の中で同時にいくつの概念を操れるかということである。たとえば、暗算で19×6を解くことは容易だが、184.930×34.004を解くことはほとんど不可能である。処理は同じなのだが、後者の場合は計算の過程を追うために頭の”容量を使い果たして”しまうのだ。だが、頭はあるトリックを使ってこの問題に対処している。そのもっとも効果的なものが練習である。練習は知的活動に使用する”場所”を減らしてくれるからだ。サッカーでドリブルをするとき、ボールを蹴る強さや、足のどの部分を使うかといったことに神経を集中しているようでは、優れた選手になることはできない。このような基本的な動作を無意識にできるようになり、試合の戦略といった高度な事柄に対応する余裕を残していなければならない。同じように、代数をマスターするには基本的な数学的事項を暗記していなければならない。

(中略)練習により、次の三つの重要な恩恵が得られる。つまり、より高度な技能を習得するために「必要な基本技能の強化」「その忘却の防止」「転移の促進」である。

(P.192~194)

☞抽象的な操作を行うにあたっても、それを行う状況を反復練習することで、スムーズにできるようになる。ただし、その練習は集中的に行う練習(=集中学習)と、間隔を開けて行う練習(=分散学習)に分けられる。集中学習は、いわゆる「一夜漬け」で直後の成績はよいが、その後の定着率は悪い。その一方で分散学習は、集中学習の直後に比べると成績は劣るものの、その成果は長く保持される。授業では集中的に反復し、その後の復習では分散学習に取り組ませるのがよさそうである。

 

【スローラーナーへの支援】

私たちはスローラーナーに対して何ができるだろうか。この章のポイントは、スローラーナーは頭が悪いのではないことを強調することだ。潜在能力ではほかの子どもとほとんど変わらないだろう。知能は変えることができるのだから。誤解しないでもらいたいが、スローラーナーでも簡単に追いつくことができるという意味ではない。スローラーナーもファストラーナーと同じ潜在能力を持っているが、違いもある。たとえば、知識の内容、やる気、学業でつまづいたときの粘り強さ、子どもの自己イメージなどである。スローラーナーでも追いつくことができると私は強く信じているが、彼らが大きく遅れていて、追いつくには並々ならぬ努力が必要であることは認めなければならない。では、どうすれば手助けすることができるか。スローラーナーがファストラーナーに追いつくには、まず自分が成長できるということを信じさせ、次に、挑戦する価値があることを納得させなければならない。(P.321)

☞「能力ではなく努力を褒める」「努力は報われることを実感させる」「失敗は当然のこととして扱う」「具体的な勉強のスキルを教える」…

今年度、習熟度で下位のクラスを担当していて、特に意識したこと。上位生にとって当たり前のこと(=やればできるという信念、問題を解く際の思考)でも、下位生にとってはそうではない。教えて、反復させることが必要なのだ。これらを意識したことで、下位クラスでも上位クラスの生徒の成績を上回るケースが出始めた。教師の関わり次第である。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

本書では、脳科学認知科学の成果に基づき、授業・学習指導の改善の具体的方法を提言している。

どの原則も、これまでの指導の経験から深く頷かされることばかりだった。

①「価値・期待」の適切な課題の設定

②知識を覚えさせることをためらわない

③記憶させたい知識に関連した思考場面をつくる

④抽象概念を獲得させるために具体的な状況を変化をつけて繰り返す

⑤練習の価値(=基礎技能強化、忘却防止、転移促進)を語り機会を確保する

⑥学習が遅い生徒も成長できると信じて努力を励ます

 

今後も折に触れて読み返したい1冊。

 

教師の勝算―勉強嫌いを好きにする9の法則 | Daniel T. Willingham, 恒川 正志 |本 | 通販 | Amazon