三度の飯より授業が好き

生徒の学力向上に真正面から挑む塾講師の勉強ブログ

【読書】使える脳の鍛え方 成功する学習の科学 ピーターブラウン他

【新しく学んだことを想起練習する】

「想起練習」とは何か自分でクイズをすること。再読ではなく、記憶から知識や技術を思い出すことを学習の中心に置くべきだ。

どう勉強法に取り入れるか教科書や講義ノートを読むときに、ときどき手を止め、テキストを見ずに次のように自問する。ここで重要な概念は何か。初めて見る用語や概念はどれか。それらをどう定義するか。この考えはすでに学んでいることとどう関係するか。

クイズのあとは答え合わせをして、知っていることと知らないことを正確に把握しているかどうか確かめる。クイズを使って自分の弱点を発見し、その範囲の学習を強化して弱点を克服しよう。新しく学んだことを思い出すのがむずかしいほど、学習効果は高まる。まちがえたとしても、答え合わせで正すことさえ怠らなければ、失敗ではない。

なぜ想起練習のほうがすぐれているのかー再読によってテキストに慣れると、理解しているという錯覚を起こすが、それで教材を習得したとは必ずしも言えない。テキストに慣れることには、ふたつの問題がある。ひとつは学んだと思い込むこと、もう一つはあとで思い出せるというまちがった認識を持つことだ。

それに対して、主要な概念や解釈について自分でクイズをすれば、周辺情報や教授の言い回しではなく、中核となる原則を理解するのに役立つ。また、自分が理解していること、学び足りないことを客観的に知ることができる。さらに、クイズは忘れることを防止する効果もある。忘れるのは人間の本質だが、新たに学んだことを思い出す練習をすれば記憶が強化され、あとで思い出しやすくなる。(P.210~212)

☞高校時代、電車通学に時間がかかるため、電車の中で勉強していた。車内は混雑するのでペンを使った勉強はできない。必然的に単語帳やノートを開いて覚えるタイプの勉強になる。そんな中で、この「想起練習」は自然に身についていったように思う。赤シートで隠して想起を試みて、思い出せなければその場で確認⇒あとでもう一度想起を試みるということの繰り返し。そのうち、授業で取るノートも、赤シートで隠せるように重要な項目はオレンジのボールペン(赤シートでよく隠れる)で書くようになった。

おかげで古文単語・英単語や、世界史や倫理など、覚えることが中心の教科は机に向かって勉強した記憶がほとんどない。だいたい電車の中で覚えてしまっていた。

 

【間隔をあけて練習する】

「間隔練習」とは何か同じ教材を一定の時間をあけて複数回学ぶこと。

どう勉強法に取り入れるか少し忘れたころを見計らって自分にクイズを出し、再度勉強する。どのくらい時間をあけるかは、教材次第だ。人の顔と名前のような、つながりを忘れやすいものなら、最初に見てから数分以内に見直す必要があるだろう。教科書の新しい内容なら、最初に読んでから1日、2日以内に再読した方がいいかもしれない。そしてもう一度見る時には、数日から1週間ほどあける。ある内容をマスターしたと感じたら、1か月に1度クイズを行う。また、学期中に新しく学んだもののクイズをすると同時に、まえに習った内容も想起練習し、その知識があとから学んだこととどのように関係するか考える。

間隔をあけて練習するもうひとつの方法は、ふたつ以上の主題を交互に練習することだ。代わる代わる学べば、どの主題にも新しく切り替わった頭で接することになる。

直感的にはーひとつのことに長い時間をかけて集中し、習得したいことを繰り返し練習するほうがよさそうに見える。新しい技術や知識の習得には欠かせないと信じられてきた。練習あるのみという集中学習だ。この直感には説得力があり、ふたつの理由で反論しにくい。まず、同じことを繰り返し練習するとたいていうまくなるので、この練習法は正しいと思い込む。第二にひとつのことを繰り返して上達したとしても、それは短期記憶に入っているだけですぐに忘れてしまうということを理解していない。憶えてもすぐに忘れてしまうことがわからないから、集中練習は効果的という印象を持つのだ。

なぜ間隔練習のほうがすぐれているのかーたんなる繰り返しで何かを記憶に刻み込めるという考えは、広く信じられているがまちがいだ。たくさん練習することに効果はあるけれども、間隔をあけなければ意味がない。自分でクイズすることを勉強法の中心都し、まえに学んだことを少し忘れるくらい学習の間隔をあけると、思い出す努力をしなければならない。つまり、長期記憶から「リロード」することになる。その努力で重要な概念が目立って覚えやすくなり、ほかの知識やさらに新しく学ぶこととしっかり結びつく。間隔練習はじつに効果的な学習法なのだ。(P.213~214)

☞「覚えるためには、少し忘れなければならない。」初めてこの教訓に接したときは、意外な感がすると同時に、経験を振り返って深く納得もしたものだ。受験生時代、問題集は3周以上解くようにしていた。1周目はすべて。2周目は1周目で間違えたり分からなかったりした問題だけ。3周目以降も同様に繰り返す。今にして思えば、それがちょうどよい間隔練習になっていたのだと思う。(この方法で勉強したセンター試験の英文法の問題は、ほぼ満点だった。)

このことを生徒や保護者に伝えても、やはり驚かれることが多い。「忘却=勉強においてあってはならないこと」という思い込みは、それほどまでに根強いのだ。「忘れることは悪いことではなく、むしろ勉強のためには必要なこと」という学習観を共有しておきたい。…定期テスト対策も、直前に詰め込むより、毎週間隔練習をした方が効果が上がるだろうか。

 

【種類のちがう勉強を交互にする】

「交互練習」とは何かー数式を学ぶなら、一度に二種類以上を勉強し、解法のちがう問題を代わる代わる解くようにする。生物の種類でも、オランダの画家でも、マクロ経済の原理でも、さまざまな例を混ぜるのだ。

どう勉強法に取り入れるかー多くの教科書は主題ごとにまとまっている。たとえば、回転楕円体の体積の求め方といった特定の問題の解き方が説明され、いくつも練習問題があったあとで、別の種類の問題(錐体の体積の求め方)に移る。この種の「ブロック練習」には交互練習ほどの効果はない。こうしてみよう。勉強の計画を立てる際に、解き方は覚えたけれどまだ充分に身についていない新しい種類の問題を、ほかの練習問題に混ぜて交互に取り組み、それぞれに適した解き方を思い出せるようにする。特定の主題や技術に集中しすぎて、そればかり練習していると気づいたら、やり方を変える。ほかの課題や技術と混ぜて、つねにどの種類の問題か、そして正しい解き方はどれか気づく能力を養う。

直感的にはー一度に一種類の問題を集中して解き、その種類を「完璧に」習得してから次の種類に移りたくなる。

なぜ交互練習のほうがすぐれているのかさまざまな種類の問題を混ぜることで、酒類を見分け、その種類に共通する特徴に気づく能力が養われる。のちの試験や実際の環境では、問題の種類を判別し、正しい解決策を当てはめて解かなければならないが、それがうまくできるようになる。(P.215~216)

☞特に意識していたわけではないが、この「授業・学習指導」の勉強においても、本のジャンルを代わる代わる読むようにしている。「勉強法」の本を読んだら、次は「話し方」、「教え方の原理・原則」、そしてまた「勉強法」に戻ってくるというように。

時に「授業・学習指導」の情報マップに加えていないまったく別ジャンルの本を読むこともある。(単純に、同じジャンルの本ばかり読んでいたら、飽きてしまう)

それが学習法として理に適っていると知って、少しホッとしている。

ここで書かれているように、「ブロック練習」の方が効果が高いという思い込みもまた根強い。かくいう私自身も、その思い込みに囚われていた人間の一人。

たとえば、新任講師の授業指導を行う際、以前は同じ題材で授業の練習を繰り返しさせていた。同じ授業を繰り返すことで、原則が着実に身についていくと考えてのことであった。

しかし、トレーニング期間を終えた講師が実際に生徒相手の授業を始めると、思ったように学んだ原則を活かせていない状況が分かってきた。

繰り返し練習した題材には習熟したものの、それを他の題材でも活かす応用力が身についていなかったのだ。(知識や経験の「転移」はそもそも起こりにくい)

nekomin-lesson-learning.hateblo.jp

最初のうちは、自信をつけさせるために、同じことを繰り返すブロック練習をするのも有りかもしれないが、一定の段階まで進んだら交互練習に切り替えるべきなのだろう。

現在指導している講師は、交互練習でトレーニングしている。(録画での振り返り+私の示範授業をセットにして。 )どう成果が出るか、楽しみだ。

 

【「精緻化」で想起の手掛かりを増やす】

「精緻化」とは何か新しい教材に新しい意味づけや解釈を見つけるプロセス。たとえば、自分のことばで誰かに説明したり、教室の外の自分の生活とどうかかわるか考えたりして、その教材をすでに知っていることと関連付ける

どう勉強法に取り入れるかー効果的な精緻化の方法は、新しい教材に関するたとえや視覚イメージを見つけることだ。たとえば、物理学の角運動の原則を理解するために、フィギュアスケーターが両腕を胸元に引き寄せて回転スピードを増すところを視覚化するなど。新しい知識を、すでにある知識と結びつけて精緻化するほど、新しい知識への理解は深まり、結びつきが強化されてあとで思い出しやすくなる。

生物学教授のメアリー・ウェンでロスが学生に大きな「まとめシート」を作成させ、精緻化を進めた方法がある。一週間のうちに学んださまざまな生物系がどのように相互に関連しているか、一枚の大きな紙に図式とキーワードでまとめる作業で、意味の層を増やして概念や構造、相互関係への理解を深める精緻化の一形態だ。(P.217)

☞「ノートのまとめ」は、成績向上に効果がある方法としてよく挙げられるが、ここまで学んできて、やり方次第では自己満足になってしまうことがわかった。よくあるのは、「教科書や参考書に書かれていることをそのまま写すまとめ方」である。これでは、すでに知っていることとの関連付けはどうしても弱まってしまう。このやり方を生徒に指導する際は、「まず何も見ないでまとめること」「その後、教科書や参考書と見比べること」を強調したい。

(このジャーナルも、本当はそうした方がよいのだろうけれど…時間の関係もあるので、自身の体験や知識を関連付けたコメントを述べることで、精緻化を図るようにしている)

 

【生成練習で新しい学習を受け入れやすくする】

「生成練習」とは何か答えや解き方を教わる前に自力で試してみること。たとえば、文章中の欠けた単語を埋める(それを書いた人に与えられることばではなく、自分で言葉を考える)ような簡単な練習でも、たんに完全な文章を読むより学習が深まり、記憶に残る。

どう学習に取り入れるかー授業で新しい教材を読むときに、出てきそうな主要な概念をあらかじめ予想して自力で説明し、既存の知識と関連があるかどうか考えれば、それが生成学習だ。そのあと教材を読んで、自分の解釈が正しかったかどうか確かめる。最初に努力したことによって、予想と実際の内容がちがっていたとしても、要点や関連性の把握がしっかりとできる。

もし科学や数学の授業で問題の種類ごとに異なる解き方を学ぶのなら、授業を受ける前に解いてみることだ。セントラルルイスのワシントン大学物理学科では、授業のまえに予習として問題を解くことを義務付けている。解き方を教えるのは教授の仕事だろうと腹を立てる学生もいるが、事前に問題に取り組むと授業中の学習が強化されることが教授には分かっている。(P.217~218

☞「記憶は思考の残滓である」という言葉の通り。自分で解いてみるという段階を経なければ、思考の強度は弱くなり、学習は深まりにくい。筋トレと同じで、学習するため(=新たな神経のネットワークを形成するため)にはある程度の負荷が必要なのだ。

授業においても、問題演習の際はもとより、新しい内容を教える際にも、なるべく多くの思考の機会を設けるようにしたい。板書に敢えて「空白」をつくるのも一つの手段だろう。

 

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本書のメッセージを一言でまとめると、「効果的な学習には、ある程度脳に負担をかけなければならない」ということになるだろう。

巷には「○○を2時間でマスター」「すらすらと頭に入る△△」と謳った参考書や勉強法の本が溢れているが、脳科学認知科学の成果が支持しているのは、そのような”楽”な勉強法ではなく、ある程度”苦労”する勉強法なのである。

 

もちろん、闇雲な苦労ではいけない。効果的な学習には、どんな種類の”苦労”が必要なのかをまとめたのが、本書である。

 

①想起しながら学習を進める苦労

②間隔を空けて少し忘れたものを思い出そうとする苦労

③違うテーマを交互に勉強する苦労

④知っていることと結び付ける苦労

⑤まずは自分で解いてみる・考えてみる苦労

 

昔からどんな分野でも強くなるためには、修業が必要だった。

そうした修業に立ち向かえるよう、勉強を価値づけ、期待を高めるよう動機づける(勇気づける)働きかけが、指導者には求められると言えよう。

 

使える脳の鍛え方 成功する学習の科学 | ピーター・ブラウン, ヘンリー・ローディガー, マーク・マクダニエル, 依田 卓巳 |本 | 通販 | Amazon