三度の飯より授業が好き

生徒の学力向上に真正面から挑む塾講師の勉強ブログ

【読書】子どもがつまずかない教師の教え方10「原理・原則」 伊藤敏雄

【ARCS(アークス)モデルで授業をデザインする】

ARCSモデルというのをご存じでしょうか。ジョン・ケラーという人が提唱した動機づけモデルです。注意(attention)、関連性(relevance)、自信(confidence)、満足(satisfaction)の4つで構成されています。

 

板書をすると、子ども達は板書を写すことに精一杯で、重要なポイントを聞き逃すことがよくあります。ノートに写すのに時間がかかり、板書を写すことが目的になってしまうのです。

しかし、スライドで表示すると、ノートを取るとか他のことをする機会が格段に減ります。子ども達は「今日はどんなことをやるんだろう」と意識的にスライドを見るようになるのです。この方が、子どもは授業に集中できるのです。

注意とは、このように授業や学習内容に集中できるようにするための「しかけ」である必要があります。(P.46~47)

☞勤務している塾でも、写す手間を省くためにあらかじめ板書の内容が記された穴埋めノート教材が使われる学年がある。(ただ、穴埋めにする箇所にセンスがない)

内容はともかく、生徒の注意を内容に向けやすいという意味では、活用できる工夫かもしれない。

 

【算数の読解力は「精緻化」」「要約」「例示」で伸ばせる】

「精緻化」とは、詳しい情報を付け加えることです。

例えば、時速〇Kmとは、1時間に〇km進むという意味です。時速60kmだけでは、子どもは道のりと勘違いしている可能性もあります。このような速さという単位の意味がわからないので、子どもの多くが、読み飛ばしをしているのです。ですから、算数でも言葉の意味を丁寧に説明して、理解をうながす必要があります。

 

「要約」とは、算数の文章題で、問題文か何を問いかけているかを読み取ることです。

例えば 、4年生で何倍でしょうという単元があります。このような文章題で大切なことは、関係性を簡潔に読み取ることです。要するに、「~は…の何倍か」を読み取れば良いのです。「~は…の何倍か」を意識して読み取るように意識して働きかけないと、子どもは数字だけをつまみ読みして、数字と数字の関係性まで読み取ろうとしないのです。文章の量が多すぎて読み取れないと言った方が正確かもしれません。

 

「例示」とは、わかりやすい数字に置き換えることです。

例えば、「5/7Lで2/3㎡の壁を塗れるペンキがあります。このペンキ1Lでは何㎡の壁が塗れますか」という問題があったとします。これは出てくる数字が分数で、イメージしづらいので非常に難しい問題です。しかし、「2Lで2/3㎡の壁が塗れる」という問題だったらどうでしょうか。このように、いったん、簡単な数字に置き換えて説明することで、わかりやすい説明になるのです。

 

以上のように、文章題はただ読ませるのではなく、何をどのように読み取れば良いのかねらいをはっきりさせて読み取る練習をすることが大切です。そうすることで、算数でも読解力を伸ばすことができるのです。(P.57~58)

読解力=文章に書かれていることを整理し、理解する力。重要なのは、整理をどのように行うかということだが、ここではその具体的方略を指摘している。

精緻化を促す問いかけ➡例)「〇〇って、つまりどういうこと?」

要約を促す問いかけ➡例)「この文章で重要な箇所はどこ?」

例示を促す問いかけ➡例)「簡単な数字に置き換えると?」

最初は教師が模範を見せつつ、段階的に問いかけを用いることで徐々に生徒が自分で読解できるよう育てていくことができそう。

 

【「テスト効果」で学習効果を最大限に】

認知心理学で、テスト効果(Testing Effect)と呼ばれるものがあります。小テストをしたり問題を解いたりする方が学習効果が高いことです。いわゆる問題演習は立派な学習法なのです。

(中略)

テストや問題演習を行ったら、必ず「答え合わせ」と「解き直し(間違い直し)」をすることが大切です。特にまちがえた問題の扱いはマインドセットの観点からも重要ですし、答え合わせはフィードバックに、解き直しはメタ認知をうながすために欠かせません

(中略)

「わかる」というのはじわりじわりと効いてくるので、たった1回、解説をしたり、赤ペンで答えを写したからといって、「わかる」ことはまずありえません。

授業も同じで、1回のドラスティックな授業をやったからといって、子どもに何かが身につくということはまずありえません。

特に算数では、概念的な理解や思考よりも、まず、手続き的な知識や技能の習得が重要な教科です。実際に問題を解いたり、まちがえた問題を解き直したりしない限り、身につく力も身につかないのです。(P.77~78)

☞語句の空所補充問題のように、憶えている知識を出力するだけの問題であれば、テスト後に直ちにフィードバックを行うことを繰り返すことで正確に記憶していける。

しかし、算数の文章題のように読解や判断といった思考を伴う問題では、解けなかった問題のどこで躓いたのか、そもそも解き方が見えなかったのか、見えていたが読解でミスをしたのか、立式の段階でミスをしたのか、計算の過程にミスがあったのか・・・こうした「間違い直し」、そして自力での「解き直し」が不可欠になる。

理科の難しいところは、知識系の問題と、思考系の問題が混在していること。(単元によっても、その比重が異なる)それぞれの出題形式に対して、適切な学習方法を意識的に指導する必要がある。

 

【□を使った式で解き方を見える化する】

「サッカー部の入部希望者は40名で、これは定員の1.6倍にあたります。サッカー部の定員は何名でしょう。」

・□の式を使った割合の解き方の例

わからないものを□として、いったん□の式で考える

□×1.6=40

□  =40÷1.6=25

 

まず、「何は何の何倍なのか」を読みとる必要があります。それを式で表す前に、いったん言葉の式で書き出してみる(要約)することが大切です。(P.160)

☞理科の表やグラフの読み取りでも、まず数値の関係性を書き出してみるよう指導することが多い。たとえば、「1.0Aの電流が流れるとき、5分間で4.2℃温度が上昇する電熱線Aがあるとき、2.5Aの電流が流れると5分間で何度温度が上昇するか」という問題であれば、

(例)

   1.0A - 4.2℃

 ×2.5 ↓    ↓×2.5     

   2.5A  - □℃

 

□=4.2×2.5=10.5

 

以上のように、表として関係性を書き出すとどのような計算をすればよいかが一目瞭然となる。比例関係が成り立つ際は、ほとんどの場面において使える方略であるため、あらゆる単元で指導してきたが、理に適った方略と言えそう。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

かつて「分かりやすく興味関心を惹きつける授業をすれば、それで自然に成績は上がる」と思っていた時期があった。私が師匠に倣って理科ネタを追求してきたのはそうした発想に基づいている。その追求の結果、”理科が一番の得意教科になりました”と言い出す生徒が現れたり、アンケートで”以前より理科に抵抗感が無くなった”と答える生徒が大多数を占めたりするなど、確かに一定の成果は得られた一方で、なかなか成績に結びつかない生徒がいることもまた事実だった。

本書に書かれていることは、その理由を明確に説明してくれている。著者の伊藤氏が言うように「1回のドラスティックな授業をやったからといって、子どもに何かが身につくということはまずありえ」ないのだ。

当たり前の話だが、成績を上げるためには、問題が解けなければならない。その問題を解くという行為が、実はさまざまな方略を用いる必要のある複雑な行為なのである。

いわゆる中~上位生は、これらの行為を自然に行っている場合が多い。こうした生徒は、教科に注意を向けさせさえすれば、確かに自然に成績は上がる傾向にある。

しかしながら下位生には、それだけでは不十分で、問題を解くのに必要な方略を指導しなければならない。(本書で説かれている精緻化、要約、例示などがまさにこれにあたる)

思えば師匠も実験・観察「だけ」ではなく、学習システムの構築にも力を入れていた。

ここ2年ほどでそのことに気づいて、授業のやり方を見直してきたが、方向性は間違っていないようだ。 

 

子どもがつまずかない教師の教え方10の「原理・原則」 | 伊藤 敏雄 |本 | 通販 | Amazon